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2013年1月 3日 (木)

死刑判決に「頭がパンクしそう」負担重くなる一方…裁判員裁判“曲がり角”

産経新聞 1月3日(木)0時10分配信

【事件の座標軸(9)】

 「こんなに判断するのが苦しいとは…」。鳥取連続不審死事件を審理した裁判員は吐露した。戦後最大の司法改革といわれる裁判員制度の導入から約3年半。全体として制度は順調に定着しているが、裁判員の負担軽減などの課題も浮かび上がってきた。鳥取不審死事件では、犯人性を示す直接証拠がない上、被告は黙秘を貫き、検察側の求刑は死刑。裁判員にとって判断が困難な問題が一気に噴出した。今後、兵庫県尼崎市の連続変死事件の公判でも同様に重い負担が予想されており、制度見直しの議論に影響を与える可能性もある。

■在任75日間

 「毎日、頭がパンクしそうだった。泣きながら家に帰った日もあった」

 鳥取事件で裁判員を務めた20代の女性は判決後の記者会見で、審理の重圧を率直に振り返った。

 12月4日、被害者2人に対する強盗殺人罪を認定し、上田美由紀被告(39)に求刑通り死刑を宣告した鳥取地裁の裁判員裁判。犯人に直結する証拠がなく、検察側が積み重ねた間接的な状況証拠だけで判断を迫られる上、死刑求刑が想定される事件だったことから、裁判員の任期は75日間にわたった。

 これは、3件の殺人罪などで木嶋佳苗被告(38)が死刑判決を受けたさいたま地裁の首都圏連続不審死事件の公判に次ぐ過去2番目の長さだ。

 その間、初公判から判決まで計20回の公判が開かれ、裁判員と裁判官が判決内容を決めるために話し合う評議は首都圏事件を上回る11回にのぼる。

 ただでさえ「素人」が裁くのには困難を伴う事件。加えて上田被告側は公判で突然、黙秘を表明、被告人質問を拒絶した。裁判員は被告に直接尋ねる機会のないまま、判決を下すことを余儀なくされた。

 心身にわたる大きな負担を経験した裁判員からは、「人ひとりの運命を左右することを決めるのは本当に重い」「こんなことなら裁判員になるんじゃなかったとも思った」など、苦悩を語る声が続出した。

 また、「続けて開廷するのは2日が限界。3日連続は無理だ」といった具体的な指摘が出たほか、「死刑判決の可能性がある裁判は一般市民にとって荷が重すぎるのではないか」との意見もあった。

 平成21年5月にスタートした裁判員制度。原則として「死刑または無期」の罪に当たるなどの重大犯罪を審理する。世間の関心が高い事件にこそ、国民の感覚が反映されるべきだとの考え方に基づくものだ。裁判員にかかる負担は制度の特性ともいえる。

 しかし、甲南大法科大学院の園田寿教授(刑事法)は「いかに裁判員の負担を軽減しながら、司法への市民参加を実現するかが重要だ」と指摘する。

■尼崎の事件でも…

 今後、やはり相当の困難が予想される事件が待ち構えている。尼崎で起きた連続変死事件だ。

 主犯格とされる角田(すみだ)美代子容疑者(64)の周囲で変死者や行方不明者が相次ぎ、これまでに計6人の遺体が発見された。角田容疑者が、支配下に置いた親族らとともに監禁、暴行を繰り返していたとみられるが、12月12日、殺人容疑で逮捕、勾留されていた角田容疑者が兵庫県警本部の留置施設内で自殺した。

 別の傷害致死罪などで起訴されていた角田容疑者の公訴は死亡のため棄却された。共犯の親族らは26日に殺人罪などで起訴され、裁判員裁判で審理されることが予定されている。

 被害者の死亡から長期間が過ぎ、死亡の経緯が不明確で物証も乏しい。関係者は多数に上り、事件の構図は複雑だ。さらに、角田容疑者の自殺によって、共犯者らの役割分担や殺意の有無などの解明は一層困難になった。共犯者らが死亡した角田容疑者に責任を押しつけようとすることも予想される。

 全容解明に向けた捜査は続いているが、裁判員らにとって最も知りたい部分が欠けたまま、審理が行われる可能性が高い。かなり長期間の審理になる恐れもある。

■見直し議論本格化

 裁判員制度の導入から24年10月末までに全国で約2万5千人が裁判員を務め、4300人以上の被告に判決が言い渡された。うち死刑は14人。初公判から判決までの平均審理期間は自白事件で4・4日、否認事件は8・3日だが、40日を超えた事例も10件ある。

 あまりに審理期間が長いと、裁判員を務めることができる人も限られてくる。鳥取不審死事件では、首都圏事件を上回る700人の候補者をリストアップしたが、仕事や介護などの理由で約600人の辞退が認められた。

 鳥取不審死事件や首都圏事件のように直接証拠がない一方で被告側が犯人性を否認する事件以外にも、大阪市此花区のパチンコ店で5人が死亡した放火殺人事件のように死刑(絞首刑)が違憲かどうかが争点に浮上したケースもあった。ほとんどの事件では裁判員に過度の負担がかかることはないが、一部の重大、難解な事件で裁判員の負担が極端に大きくなっているといえる。

 裁判員法では、導入から3年が経過した時点で制度の見直しについて検討することが規定されており、法務省に設置された有識者会議は10月、論点を整理。今後、制度見直しに向けてさまざまな角度からの検討が本格化する。

 中でも裁判員の負担軽減は主要なテーマだ。審理が長期化する事件や死刑求刑事件は対象から除外すべきか。死刑判決を出す場合は全員一致などのルールを設けるか否か…。

 園田教授は「鳥取不審死事件や尼崎連続変死事件のような事例は、見直しの議論にも影響を与えるだろう」と話す。今後、同様の事件がいつどこで起こるか分からない以上、着実に市民の声を司法に反映させていくには、持続可能な制度でなければならないというわけだ。

 ただ、負担軽減に傾くあまり、審理が拙速になれば本末転倒だ。「真実発見」とのバランスをとり、制度をより良く根付かせる知恵が求められる。

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