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2012年1月 3日 (火)

重大事件で相次ぐ“裁判官の追試”差し戻し判決とは

産経新聞 1月3日(火)12時16分配信
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120103-00000505-san-soci

 「赤点をもらった上に、追試までやります、と言われるようなもんです」。あるベテラン裁判官がこう嘆くのが、差し戻し判決だ。全国で年間20件前後しかない極めてまれな判決だが、近年は大阪市平野区の母子殺害放火事件や兵庫県明石市の砂浜陥没事故、山口組の元最高幹部による銃刀法違反事件など、注目度の高い事件で相次いで言い渡されている。その背景には、裁判員制度の導入に伴う裁判官の意識の変化もあるという。

■「民意」の尊重がきっかけ

 「美帆をこんな目に遭わせた人が責任を問われたよ、と報告したい」。差し戻しの末に逆転有罪が言い渡された瞬間、娘を失った金月(きんげつ)一彦さん(44)は法廷で目をうるませたという。

 昨年3月10日。明石市で平成13年12月に人工砂浜が陥没して金月美帆ちゃん=事故当時(4)=が生き埋めになり、その後死亡した事故で、業務上過失致死罪に問われた当時の国と市の管理担当者計3人に対し、神戸地裁はいずれも執行猶予付きの禁錮刑を言い渡した。事故をめぐっては、差し戻し前の1審神戸地裁は18年7月、無罪を宣告。しかし2審大阪高裁が20年7月、事実上の有罪判断を示して審理を地裁に差し戻していた。

 最高裁や高裁が下級審の判決に誤りがあると判断した場合、その判決を破棄する。これが、冒頭のベテラン裁判官がいうところの「赤点」だ。「自分の判決がダメ出しされるわけだから、それだけで気分はよくないですよね」

 この際、上級審には、差し戻して下級審に「追試」を受けさせるか、自ら判決を言い渡す自判をするか、2通りの選択肢がある。法律判断がメーンで新たな証拠調べを行うことが少ない最高裁の場合は、差し戻すのが通例。これに対し高裁が1審判決を破棄した場合、自判するのがほとんどだ。

 だが、差し戻しに対する裁判官の意識は変わってきているという。高裁での勤務経験がある別のベテラン裁判官は「裁判員裁判という『黒船』が与えた影響が大きい」と説明する。

 裁判員制度の導入が決まったのは、16年5月。その段階から、控訴審のあり方が新たな課題とされてきた。裁判員裁判が行われるのは1審だけ。国民から選ばれた裁判員が下した判断を、職業裁判官のみが審理する控訴審が破棄するのは「民意」に反しているのではないか-。

 こうした問題提起を受け、最高裁司法研究所は20年11月、「できる限り1審判決を尊重すべきだ」とする研究報告書をまとめた。だが実際には、裁判員裁判の判決を破棄するケースも出てくる。その場合でも自判するのではなく、差し戻して再び裁判員の判断に委ねるのが望ましい、というのが現場での認識なのだという。

 「これまでは下級審の判決を破棄する以上、自判するのが上級審の責任だという自負があった。しかし裁判員裁判に限らず、差し戻しへの抵抗感が薄れたのは間違いない。むしろ重大な事件であればあるほど、差し戻して慎重に審理するという意識が芽生えましたね」

■デメリットは長期化

 ただ当然、自判する場合に比べると、審理が長期化することは避けられない。

 明石砂浜陥没事故では、差し戻し審判決の後、被告側は控訴。事故発生から10年を目前にした昨年12月2日、大阪高裁で第2次控訴審判決が言い渡された。判決は差し戻し審判決と同様に有罪としたが、一彦さんは「訴えてきたことが認められたのはうれしいが、もっと早くできなかったのか。10年たってやっとここまで来たという気持ちだ」とコメントした。被告側はその後上告しており、判決が確定するのはまだ先になる見通しだ。

 「残念だというのが正直な気持ちです。無期懲役が妥当でないなら、最高裁には自ら死刑判決を下してほしかった」

 最高裁が示した差し戻しの判断に対し、11年4月に起きた山口県光市の母子殺害事件の遺族である本村洋さん(35)は、率直に不満をこぼした。

 最高裁第3小法廷は18年6月、事件当時18歳だった男性被告(30)を無期懲役とした2審広島高裁判決を破棄、審理を高裁に差し戻した。5年半前のこのとき、本村さんが望んだ通り自判していれば終結していたはずの裁判は、死刑を言い渡した差し戻し控訴審を経て、今月23日に第2次上告審の弁論が最高裁第1小法廷で開かれる段階にとどまっている。

 2度にわたる差し戻しに翻弄されたのが、17年11月に広島市で小学1年の木下あいりちゃん=当時(7)=が殺害された事件だ。

 1審広島地裁は18年7月に無期懲役を宣告。2審広島高裁は19年12月、「審理が尽くされていない」と地裁に差し戻した。しかし弁護側の上告を受けた最高裁が21年10月、この差し戻し判決を破棄し、高裁に差し戻し。差し戻し後の高裁は22年7月、結局1審と同じ無期懲役を言い渡し、検察、弁護側双方が上告せずに確定した。

■上級審の意向とは逆の判決も

 だからといって差し戻し審が、単に上級審が求めた通りの「回答」を示すだけの追試になるとは限らない。

 昨年5月24日、指定暴力団山口組の元若頭補佐、滝沢孝被告(74)の差し戻し審判決で、大阪地裁は差し戻し前と同様、またも無罪を言い渡した。

 滝沢被告はボディーガード役の組員に9年9月、大阪市北区のホテルで拳銃と実弾を所持させたとして、銃刀法違反(共同所持)罪で逮捕・起訴された。16年3月の1審大阪地裁判決、18年4月の2審大阪高裁判決はともに無罪。ところが21年10月、最高裁は「1、2審判決には誤りがある」と無罪判決を破棄し、審理を地裁に差し戻した。

 同じ時にやはり配下の組員が拳銃を所持していた篠田建市・6代目組長(69)=通称・司忍=はすでに有罪が確定し、服役も終えている。滝沢被告に対しても、最高裁が「無罪ではない」との方向性を示した以上、差し戻し審では有罪が言い渡されるものとみられていた。

 しかし地裁は「証拠関係が同じであれば、最高裁の判断に拘束される」としながらも、差し戻し審で新たに証人9人など新たな証拠を取り調べたことを挙げ、「上告審当時とは証拠関係が異なるため、最高裁判決の拘束力からは解放されている」と結論付けた。

 現在、最も判決の行方が注目を集めている差し戻し審といえるのが、14年4月に大阪市平野区で起きた母子殺害放火事件だ。大阪刑務所刑務官、森健充被告(54)=休職中=に対しては、1審大阪地裁が無期懲役、2審大阪高裁は死刑を言い渡したが、最高裁は21年4月、「事実誤認の疑いがある」としていずれも破棄、審理を地裁に差し戻した。

 最高裁が事実誤認を理由に死刑判決を破棄したのは、わずかに戦後7件目。過去の6件はいずれも無罪が確定している。一方で差し戻し審では、滝沢被告の場合と同様、新たな証拠も取り調べられた。

 3月15日に言い渡される差し戻し審判決では、過去6件と同様、死刑から無罪へと劇的な展開をたどるのか。それとも新証拠を理由に、最高裁が示した方向性とは異なる有罪判決が言い渡されるのか。くしくも森被告の主任弁護人は、滝沢被告と同じ弁護士が務めている。

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