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2011年8月12日 (金)

エロはOK、脱獄と自殺はNG? “刑務所タブー”を破った問題作

サイゾー 8月12日(金)12時9分配信
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20110812-00000301-cyzoz-soci

──証券取引法違反により、元ライブドア社長・堀江貴文被告の実刑判決が確定した。彼いわく、刑務所の中では読書をして勉学にはげむというが、塀の中の読書事情とは一体、どのようなものなのだろうか? 刑務所のタブーを破った本を紹介しながら浮き彫りにしてみたい。

 4月25日、堀江貴文の収監が決定し、それを受けて行われた会見上で読書にはげむという彼のコメントが一部で話題になったが、近年、“塀の中”の読書事情が劇的に変革したのをご存じだろうか? 2005年、およそ100年間にわたって受刑者に運用されてきた監獄法(1908年公布) が全面改正され、受刑者の読書事情が大幅に改善されたのだ。新法の名称は「刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律」、通称「刑事収容施設法」。受刑者の処遇に関係する部分は06年5月に施行された。

 新法の最たる特徴は、受刑者(法律では被収容者と呼称)の「権利義務と矯正職員の権限」を明文化した点と、「受刑者の本を読む権利」を保障(所長権限による、という曖昧な表現も多く見られるが)した点である。読書に関していえば、例えば旧法では、多数の本を所持していても手元における冊数は3冊(学習参考書や辞書類は冊数外の扱いになっていた)と制限されており、残りは“領置”と呼ばれ、倉庫に収めることになっていた。読み終えた本を倉庫に戻し、新たな本と交換する場合は、“領置下げ”という願箋を書いて、下付願いを出さなければ閲読は許可されなかった。それが新法では改正され、手元に何冊でも置けるようになったのだ。

 もちろん、いまだに差し入れられる本に対して検閲がなされるのだが、後述のインタビューに答えてくれた元受刑者の笹倉哲平氏によると、「法改正云々にかかわらず、刑務所の読書事情は、一般のそれとそんなに変わりません」という。

「ケータイ小説がはやれば『恋空』(スターツ出版)が読まれていましたし、ハリー・ポッターの新刊が出れば、読書好きの受刑者はこぞって読んでいました。基本的に本は自分で購入することもできますが、親族や知人に差し入れてもらうことが多いですね」(笹倉氏)

 だが、受刑者の中には、読書嫌いどころか識字能力に問題のある者、知的障害者、さらには要介護老人もおり、本を読む機会とは無縁の生活を送る受刑者も少なくはない。これら刑務所における弱者の現実を描いたのは、『名もなき受刑者たちへ 「黒羽刑務所第16工場」体験記』【1】であるが、作者である本間龍は、黒羽刑務所(初犯受刑者が主に収容されているA級施設)に服役(詐欺罪)していた経験をもとに、現実の所内を浮き彫りにしている。彼が就業した第16工場とは、認知症や知的障害を持つなど、介護が必要な受刑者が働く刑務所内の工場で、その日常におこる出来事や事件をリアルに描いているのだ。

 一方、“塀の中の読書事情”にスポットを当ててみると、元外務省職員で02年に背任容疑で逮捕された作家の佐藤優は、『獄中記』(岩波書店)において勾留中に読破した書物を得々と論じているが、こういった書物は非常にまれである。


■性犯罪者がヘアヌードを閲覧できるのは問題?


 しかし、佐藤氏に限らず、受刑者の中には大変な読書家がいるのも事実。そこで筆者は、前出の笹倉氏に「刑務所の読書事情」について話を聞いた。彼自身も、殺人未遂の罪で黒羽刑務所に5年余り服役し、3年前に仮出所、現在はサラリーマンとして働き、社会復帰を果たした人物である。また、これまでおよそ120人の受刑者に取材してきた筆者が知る限り、ダントツの本好きで、服役中に1000冊以上の本を読破したつわものだ。

──笹倉さんは5年余り受刑生活を送られたということですが、当時は監獄法の時代から新法の刑事収容施設法が施行された時期に重なります。読書環境に、大きな変化はありましたか?

笹倉 やはり、部屋に持ち込める本の冊数に制限がなくなったことですね。新法が施行された後は、常時、150冊くらい部屋に置いておきました。黒羽では、“本屋”って呼ばれていましたよ。

──ひとりで150冊も所持していたら、積読もあったのではないでしょうか(笑)。

笹倉 いや、ほとんど読みましたよ。ジャンルは小説、ノンフィクション、専門書(法律関係)、雑誌では「BUBKA」(コアマガジン)とか「SPA!」(扶桑社)、そして「サイゾー」も毎号読んでいました。年間400~500冊くらいの読書量でした。

──私は何人もの受刑者に取材をしてきましたが、笹倉さんの読書量は突出しています。なんとも旺盛な読書欲だと思いますが、受刑者というのは読書家が多いのでしょうか?

笹倉 本を読んでいると自分の世界に入れますから、ほかの人も本はよく読んでいましたよ。ベストセラー小説、時代小説、ノンフィクション、マンガ、宗教関係……変わったところでは法律や技術関係の専門書などを愛読する受刑者もいました。

──なるほど。そうした中で、いわばタブーとされている閲読不許になる本はあるのでしょうか? 法務省訓令によると、「暴動や反抗、逃走を煽ることとなる等により、刑事施設の規律及び秩序びん乱を誘発することとなるおそれがあるか否か。受刑者にあっては、暴力団の活動を肯定するもの、性犯罪を助長するもの等であって、受刑者の処遇要領に照らし、その内容を閲覧させることにより、受刑者の社会復帰を妨げる」云々と定めていますが、具体的にはどんな本が禁忌とされているのでしょうか?

笹倉 新法に改正されて読書環境は大幅に改善されたのですが、刑務所だからこそ絶対に読めない本もあるんです。それは、犯罪内容を具体的に記した本や、逃走、脱獄、自殺を幇助する本で、購入本でも差し入れ本でも受刑者の手元に渡ることはありません。受刑者の脱獄と自殺は、刑務所において何よりもタブー視されます。

 私の知る限り、この手の本で引っかかるのは『大阪拘置所「粛正」刑務官』【2】、『完全自殺マニュアル』(太田出版)、『囚人狂時代』【3】、『脱獄王 白鳥由栄の証言』【4】などですね。これらの作品は死刑についての具体的な記述、逃走・脱獄の方法、自殺の方法などが詳細に描かれており、検閲の対象になる作品なんです。意外に思われるでしょうが、ヌードグラビアが掲載されている雑誌などもそのまま読めるんですよ。AV情報誌の「DMM」(ジーオーティー)ですら、入手できましたからね。そもそも刑務所とは、犯罪者の更生施設でもあるはずなのに、性犯罪者がアダルト誌を読んでいる姿を見ると、犯罪者の人権確保とはいえ、滑稽に感じたこともあります(苦笑)。

──本当にシャバと変わらないんですね(笑)。世間ではうかがい知れない、こうした刑務所内の様子を具体的に記した本で、出色なものはあるのでしょうか?

笹倉 『刑務所の中』【5】は、実際に懲役経験を持つ作者による、所内の情景がリアルなイラストで表現された秀作マンガです。小説では交通刑務所の描写が正確に描かれた『プリズン・トリック』【6】や函館少年刑務所の船舶職訓の様子を描いた『海峡の光』【7】などですね。

──では、次に検閲のことをお尋ねしますが、どこの部署で誰が担当しているのでしょうか?

笹倉 刑務所によって多少異なるとは思いますが、黒羽刑務所の場合、教育部という部署の中に図書を扱う「図書係」というセクションがあって、教育部の職員の下、受刑者が複数配置されているんです。購入、差し入れを問わず、刑務所に入った本は、まず図書係の手でチェックされて、マニュアル通りに仕分けされます。そして、仕分けされた本が職員の机上に「不許」「閲覧可」と分けられ、職員の最終チェックを受けるという流れです。毎日、相当量の本をチェックするので、判断はある程度恣意的にならざるを得ないんです。

──下読みを受刑者がやるんですね。(前述した通り)ベストセラー作家の新刊もよく読まれるようですが、定番人気の作家というのはいるのでしょうか?

笹倉 黒羽では、『砂の器』(新潮文庫)、『球形の荒野』(文春文庫)の松本清張、そして『坂の上の雲』『竜馬がゆく』(共に文春文庫)の司馬遼太郎といったところです。変わったところでは、塩野七生の『ローマ人の物語』(新潮文庫)シリーズですね。古代ローマに関する歴史書なんですが、非常に多くのファンがいます。

──なるほど。では、彼らは一体、どうやって新刊や読みたい本の情報を仕入れるのでしょうか?

笹倉 新聞の書籍広告と書評、それと出版社の図書目録ですね。雑誌は各取次が発行している雑誌総目録が情報源ですね。こうした目録は多くの受刑者が目を通すため、隠れた“塀の中のベストセラー”といえるでしょう。

 高い塀の内側の「読書事情」とは、シャバとほとんど変わることがないことがわかるだろう。しかし、検閲も行われており、まだまだ「読みたい本をいつでもどこでも自由」に手にすることは難しい環境にあるようだ。

 法務省訓令では、検閲について「自弁の書籍等の内容の検査・刑事施設の長は、被収容者の自弁の書籍等について、閲覧禁止部分の有無を確認するため、その指名する刑事施設の職員にその内容を検査させるものとする」と定めている。笹倉氏の話によれば、検閲は名目上、刑務所職員の業務とされているが、受刑者が代行しているのが実態なのだ。

 さて最後になるが、全国の刑務所に足しげく取材した筆者が薦める“刑務所のタブーを破った本”を紹介したい。それは芥川賞作家である丸山健二が 23歳の時に書き下ろした作品『夏の流れ』【8】である。作品が発表されたのは45年前の「文学界」(文藝春秋)。死刑囚を担当する刑務官と死刑囚の生活ぶりを対比させながら、2人の交わす会話と執行までの時間を情緒を排した硬質な文体で簡潔に描いた作品だ。物語の舞台は仙台拘置支所とされ、小説とはいえ“死刑囚”をテーマとした同作は、長らく刑務所では閲覧が禁止されていたという。だが、20年前、元号が平成に変わったあたりから閲覧禁止を解かれたようだ。それには、国民の死刑に対する関心が高まったという時代背景があり、今回、久しぶりに読み直してみたが、緊迫感のある文体は色あせていない。興味のある向きは、ぜひご一読いただきたい。

(文/斎藤充功)


斎藤充功(さいとう・みちのり)
1941年東京生まれ。ノンフィクション作家。東北大学工学部中退後、民間の機械研究所に勤務。その後フリーに。近現代史、犯罪者、刑務所事情といったテーマを中心に執筆活動を行う。主な著書に『刑務所を往く』(ちくま文庫)、『陸軍中野学校──情報戦士たちの肖像』(平凡社)など。

【1】『名もなき受刑者たちへ「黒羽刑務所第16工場」体験記』
本間龍/宝島社(10年)/480円
詐欺罪で逮捕された筆者が、刑務所の中で見たのは高齢者、障害者、オカマが助け合う光景だった。元受刑者だからこそ書けた"社会の縮図"ともいわれる刑務所の実情。


【2】『大阪拘置所「粛正」刑務官 獄中で最も怖れられた男の回想録』
藤田公彦/光文社(07年)/1575円
刑務官を33年務めた筆者が書く刑務所内部の闇を暴くノンフィクション。自身も体験した死刑執行官の真実からヤクザに懐柔される刑務官たちとの闘争など、刑務官側の実態をあぶり出している。


【3】『囚人狂時代』
見沢知廉/新潮文庫(98年)/499円
「三越事件」の岡田茂、「あさま山荘事件」の吉野雅邦など、世間を騒がせた有名受刑者たちの服役中の姿が赤裸々に描かれる。新右翼のリーダーだった著者が82年に逮捕されて以降、12年に及ぶ服役生活の中で記した獄中手記。


【4】『脱獄王─白鳥由栄の証言』
斎藤充功/幻冬舎(99年)/560円
強盗殺人の罪で投獄され、脱獄を4回繰り返した「昭和の脱獄王」白鳥由栄の証言を元にしたノンフィクション。脱獄の手口や2年にも及ぶ逃亡生活など、波乱の人生が綴られている。


【5】『刑務所の中』
花輪和一/講談社(06年)/798円
拳銃不法所持で収監され、獄中生活を送ったマンガ家が、刑務所内部の様子を事細かに描いた異色の獄中エッセイマンガ。02年には崔洋一監督の手によって映画化された。


【6】『プリズン・トリック』
遠藤武文/講談社(09年)/1680円
交通刑務所内で起こった密室殺人事件を追う社会派かつ超本格ミステリ。交通刑務所内で前へ倣え姿で発見された遺体。県警は逃走した受刑者を追っていくのだが──。第55回江戸川乱歩賞受賞作。


【7】『海峡の光』
辻仁成/新潮文庫(00年)/380円
かつていじめられっ子だった主人公は、函館で刑務所看守の職に就く。収監されてくる受刑者の中に、かつてのいじめの首謀者がいたことから、主人公は動揺し、かつての記憶を思い出すのだった……。辻仁成による第116回芥川賞受賞作。


【8】『夏の流れ』
丸山健二/講談社文芸文庫(05年)/1313円
刑務官の日常と死刑囚の非日常を対比させ、2人の心の動きを緊迫感のある会話と硬質な文体で描いた表題作「夏の流れ」を含む短編集。同作は、作家・丸山健二の処女作にして第56回芥川賞受賞作。

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